「介護職」
この言葉を聞くと「きついっていうよね」とつい言ってしまいたくなるようなイメージがついている介護業界ですが、では「介護施設の事務」はどうでしょうか?
「事務職なんてどこでも楽なんじゃないの?」
「お年寄りと直接関わらなくてもいいなら、コミュ障な自分にもできそう」
「いやいや、やっぱり業界全体ブラックなんじゃ?」などなど、、、
あなたはどんな感想を抱いたでしょうか?
この記事では、数ある事務職の中でもマイナー寄りな「介護施設の事務」の実情を、現役で介護施設の総務・経理を担当している筆者が体験談を交えてお伝えします!
介護施設の事務はどんな仕事?
「事務」と聞くと一般的に「事務職ってこんなことやるんでしょ?」というイメージがつきますよね。
それは介護施設でも変わりません。
例を挙げるなら、
・給与事務(職員の給与計算)
・職員向け各種福利厚生サービス(社会保険手続・財形貯蓄手続・互助会運営)
・職員採用などの人事事務
・施設運営事務(施設の修繕や物品の調達など)
・経理事務
などなど。
これらは業界に関わらず、事務職をかじったことがある方ならなんとなく仕事内容がイメージできるのではないでしょうか?
ですが介護施設にはそれ以外にも、介護施設独特の事務があります。
一部をご紹介すると以下のような内容です。
①介護報酬・利用料請求事務
全ての介護施設に当てはまるものではありませんが、筆者の勤めている介護施設では利用料金を2箇所にわけて請求します。
具体的には
行政・・・8~9割を請求(「介護報酬」といいます)
利用者様・・・残りの1割~2割を請求(「利用料」といいます)
といった感じで、大体月1回程度発生する業務です。
よく「トクヨウ」と省略される「特別養護老人ホーム」ではこの業務が発生すると思います。
②施設利用者希望物品の調達代行
備品の購入は一般的な事務でもありますが、介護施設では利用者様の欲しいものを取り寄せる仕事が発生します。
ネットショッピングを代行したり、店舗まで買いに行って本人にお渡しするなど、まるで孫のお使いのようなことも日常的に対応します。
③施設利用者預り金管理
認知症などの進行で、利用者様ご本人がお金の管理をすることが難しいケースは少なくありません。
そんな時は、あらかじめ利用者様やご家族の方と契約を結び、少額の現金を事務でお預かりします。
②でほしいものを買う時に使用したり、通院時の病院代を清算したりもします。
こんな感じの「介護施設ならでは」の事務作業が発生します。
意外な業務はありましたでしょうか?
筆者は当初「介護報酬請求」という言葉も知らなかったのでてんやわんやでした。
介護施設の事務の1日の流れとは
介護施設は24時間営業ですが、事務は日中の勤務のみになります。
筆者の場合は‥
8:30 出勤
8:45 朝礼
10:00 銀行用務
11:00 午前中仕訳
12:00 昼休み
13:00 職員向け福利厚生サービス手続き・相談対応
15:00 行政対応
17:30 退勤
といったルーティーンになります。
結構ゆったりだなと思われますか?
実はそうでもないのです。
介護施設の事務はきつい?
ぶっちゃけましょう、きついです!!!
もちろん職場環境や、その人が何を優先して仕事を決めるかにもよります。
先ほど見ていただいた一日の勤務時間、「他の事務職と変わらないじゃん」と思われるかもしれません。
ですが実は、スケジュールには多すぎて書けない業務、「来客対応・電話対応」がめっちゃあります。
体感、一日の三割は来客・電話対応していて、本来の仕事は進みません。
集中力もごりごり削られます。
筆者の勤める施設の事務職員数が相対的に少なすぎるので、対応が追い付いていないのが一番の原因ですが、気軽に人員を増やしてもらえないのも事務職の辛いところ。。。
なので、十分な数の事務職員がいる職場であれば、それほどきつくはないとも言えます。
業務分担をしやすいですし、業務の難易度自体はそれほど高くないので、業務内容的には事務初心者にもおススメです。
来客や電話対応の専属スタッフが複数人いる、という職場が理想ですね。
もし興味を持って、面接に行かれる際は事務室の雰囲気・人数などをしっかりチェックしておくことをお勧めします。
介護施設の給料や年収に関してはこちらの記事で詳しくご紹介していますのでご覧ください。
介護施設の事務はや髪型や髪色、靴は自由?
筆者が勤めている施設では、髪型は自由、髪色は黒か染めても派手すぎない茶色、といった感じです。
筆者は30代も終わりかけの男性で、そこまで髪型に頓着がないので「おじいちゃん、おばあちゃんが驚かないように、落ち着いた髪型にしてください」と美容室でオーダーしています。
基本的には事務室にいる事務員ですが、やっぱり利用者様の目に触れる機会も多いので、あまり派手な格好をした人はいません。
靴も自由で筆者は動きやすいようにスニーカーを履いています。
介護施設の事務を辞めたくなる理由とは
こちらはあくまで筆者の場合ですが、
①介護職に比べて年収がかなり低いこと。
②施設によっては、事務でも介護補助をさせられること。
③接客に時間を取られすぎて、本業の事務作業が全く進まない。
というのものがあります。
特に大きいのは①!
介護職と事務職の給与の差額、どれほどあると思いますか?
もちろんこれも施設によりますが、筆者の勤める施設では事務職より介護職の方が、おおむね三割ほど給与が高く設定されています。
なぜかというと、行政は今「介護職の給与をガンガン上げて、介護をしてくれる人を増やしていこ!条件を満たせばバンバン金を施設に配るやで!!!」という追い風を介護業界に吹かせているから。
この行政の動きは「介護職員等処遇改善加算」と呼ばれている給与改善制度です。
実際にこれをするには、いろいろな社内でのルール作りが必要なのでバッサリと省きますが、「介護職を手厚く昇給させること」が最重要の取得条件。
事務などのその他職種は関係ないので後回し。
どうしても冷遇されてしまうのです。
介護施設の事務はやめとけ?
「なんとなく未経験から事務やってみたいけど、上手くできるか分からない」そんな方には介護施設の事務、チャレンジしても良いかと思います。
理由は「キッチリさを求められる場面が少ない」から。
よくイメージされる「スーツをビシッと着こなして、颯爽と歩くサラリーマン」そんなイメージではないのが介護施設の事務の良いところ。
まずは「事務職ってこんなことするんだ」と実践していただいて、「やっぱり介護業界は自分に合わないかも」と思えば業界を変えて事務職を探すことができます。
事務職自体が向いているか分からなくても、介護業界はサービス業の側面が強いので人当たりが柔らかい人が多く、(小声ですがITに疎い人が多い傾向にもあるので)ちょっとパソコンが触れるだけでも意外と重宝がられたりします。
逆に「事務職のプロフェッショナルになりたい」という方は、介護施設は選ばれない方がベターかもしれません。
こちらもやはりサービス業、一般的な「事務職」の枠を外れて臨機応変に利用者様の対応をするシーンも多いので、やりたい仕事が出来なくてモヤモヤする可能性が高いです。
介護施設の事務に向いている人、向いていない人とは
向いている人
・人と接するのが苦にならない方
・経理初心者だけど、決算までの一通りの経理経験をゆる~く積んでいきたい方
(介護施設の多くは『社会福祉法人』という法人形態ですが、非課税であるため、消費税の計算や法人税の納税が無いところが多く、経理初心者向けだと思います)
・介護職との給与格差を「べつにいいや」と割り切れる方
向いていない人
・人と接するのが苦手な方
・事務作業に集中したい方
・職種によって、給与格差が生まれることに納得できない方
介護施設の事務の離職率はどれくらい?
筆者の体感値ですが、離職率は1割未満だと思います。
なかなか辞める方はいませんし、また求人が出てもすぐに決まるなど、意外と人気なイメージがあります。
実際に筆者が勤める施設で事務職を増員する際は、1人の枠に複数名、それも求人を出したその日のうちに応募が殺到していました。
介護施設のメイン収入である介護報酬の9割は税金(介護保険料)が財源ということもあり、経営状態が安定しやすい強みもあります。
介護施設の事務の口コミ評判とは
「福祉の常識は、社会の非常識」
あなたはこのフレーズを聞いたことがあるでしょうか?
介護などの福祉業界にいると、しばしば耳にする言葉です。(きっと筆者の周りだけではないはず)
この言葉通り、介護業界で事務をしていると「え?そんなことまでするの?」と今までの常識を覆されるような業務が出てきます。
ここでいう「社会の常識」とは「効率化や生産性の向上こそ会社にとって良いことだ」という価値観だと自分は思っています。
介護施設は皆さまご存じの通り、高齢者の方をサポートする場です。
年齢を重ねるということは、心身ともに様々なハンディを抱えていくということ。
そしてご自身で生活できるような方は介護施設にはいません。
利用者様にはその人それぞれのハンディがあります。
それら一つ一つに対応していくためには、どうしても時間と質を担保にしなければならない場面がとても多く出てきます。
それはつまり、「効率が良いこと」や「生産性が高いこと」が利用者様にとって最善の答えではないということ。
どんなに社会一般的に非効率に見える業務でも、利用者様にとってそれが「より良いサポート」であれば、それが介護業界では常識になる、そんな場所です。
しかし逆に言えば、「そんな非効率が横行する現場で、どうすれば高い質で現場がスムーズに動くことができるのか」を常にトライアンドエラーできる職場とも言えます。
「効率的な働き方こそが正解」ではないからこそ、「サポート役の事務が何を求められるのか?」を体感として身に付けることができる場所です。
特に介護業界のIT化は、他の業界に比べて遅れがちな部分が多いので、ITに精通している方はそれを武器に殴り込むのも面白いのでは?と筆者は感じています。
給与面で「介護職より冷遇されがち」と言いましたが、それでも求人票を見比べてみると一般的な事務より金額が高いことも結構あります。
実際に同僚と雑談していると「めちゃめちゃ色々やらされるけど、その分金額は普通の事務より良いよな。一つのことに集中できないから、帰るころにはいつもクタクタだけどさ(笑)」という愚痴が出てきます。
来客対応や電話対応の人出すら足りない職場ですが、その分ヘルプに来て飛び回ってくれる上司も多いので、良い意味で上下関係の隔たりがないのも良いところです。
(もちろん上司にあたる人がどんな人なのかにもよりますが‥)
なんだかんだで介護施設の事務はイイ!
いかがでしたか?
ハマる人もそうでない人もいると思いますが、介護施設の事務は様々な人間模様に触れることができる面白い職場です。
事務職の入り口として、または福祉業界の入り口として、キャリアをスタートしてはいかがでしょう?