病院で働く医師や看護師とは違い、地域で仕事をする行政保健師。
その役割や仕事内容は勤務先や部署によっても様々です。
ここでは主に市区町村などの行政機関で働く行政保健師の仕事内容や1日のスケジュールなどを詳しく紹介していきます。
また、実際に働いてみてきつかったことや感想なども紹介するので、ぜひ参考にしてみてください!
行政保健師の役割や仕事内容とは
仕事内容は勤務先によって違いますが、主に保健所では地域の衛生管理や感染症対策、市区町村などでは健診の実施、日頃からの相談対応、最近ではワクチン接種業務なども行っています。
市区町村や保健所などの公的機関に勤める保健師の役割は「病気を未然に防ぐ」「地域で暮らす住民の生活を支えること」です。
① 病気を未然に防ぐ
自分や家族が病気になると、治療のための通院、はたまた手術が必要だったりと今までの生活を続けることは難しくなります。
保健師は、人々が健康で暮らせるように、「予防」という視点を持って仕事をします。
健診で病気を早期発見したり、飲酒や喫煙、肥満など既に病気になるリスクが高い人に対して指導を行ったりしています。
② 地域で暮らす住民の生活を支える
暮らしと言っても生活スタイルは人それぞれですよね。
病気を抱えながらも仕事を続ける人、仕事と子育ての両立が大変な人、介護が必要な人、家族の介護をしている人など…
行政保健師は、そんな人々が自分の望む生活を実現できるようにサポート役として支援をしていきます。
実際に、私は高齢者担当の部署で働いていました。
主な仕事内容は、高齢者やその家族からの総合相談受付、介護保険申請、福祉用具(車いすやベッドなど)の貸出、体操教室の企画・運営で、事務仕事から現場に出て活動する仕事まで様々な業務を行っていました。
行政保健師の1日の流れとは
勤務先によって1日の流れは変わってきますが、ここでは市役所などの行政機関で働く保健師の1日を紹介します。
<一般的な流れ>
【7:45】 出勤
開庁時間は8:30ですが、窓口やデスク周りの清掃をするなど開庁に向けた準備を行います。
【8:25】 朝礼
全職員が集まり、1日の予定などを確認します。
【8:30】 部署内の予定確認
同じ部署の職員と1日の予定などを確認します。
【8:40】 業務開始
午前中の業務がスタートします。
・メールチェック
・電話対応
・訪問の準備など
【9:50】 訪問へ
事前に約束していた訪問へ向かいます。訪問の目的は、赤ちゃんの成長の様子やお母さんの健康状態の確認、高齢者の健康状態や生活の様子の確認など部署によって様々です。
【11:00】 帰庁
帰庁後は訪問の様子を個人ファイルに記入します。
【12:00】 お昼休憩
【13:00】 午後の業務開始
【14:00】 担当者会議に出席
担当者会議とは、支援を必要とする人に対し、関係する機関や職種が集まって情報共有をしたり、問題解決に向けた支援方法を検討したりする会議です。
【16:30】 帰庁
訪問時と同様、会議の記録をまとめて個人ファイルに綴じます。
【17:30】 日報のまとめ・翌日の準備
日報(訪問件数や内容など)をまとめ、翌日の予定を確認して準備をします。
【18:00】 退勤
特に業務がなければ退勤です。
実際には、これらの業務の間に電話での相談対応や窓口での対応、関係機関からの連絡などがあったりするため、業後に記録などをまとめて行うことが多いです。
<教室などのイベントがある日の流れ>
【7:30】 出勤
教室の持ち物などを準備するため、いつもより早めに出勤します。
【8:25】 朝礼
【8:30】 部署内の予定確認
【8:40】 教室の会場へ向かう
【8:50】 会場の設営
椅子や机を並べ、必要な物品を準備して会場の準備を行います。
【9:30】 午前の教室開始
参加者が集まったところで教室を始めます。教室は健康に関するお話や体操教室など様々です。
外部から講師を呼ぶこともありますが、自分たちが講師になって話をすることもあります。
【11:30】 午前の教室修了、午後の教室準備
【12:00】 いったん帰庁しお昼休憩
教室の会場が役所に近ければ、1度帰庁してお昼ご飯を食べます。
【12:50】 教室の会場へ向かう
【13:30】 午後の教室開始
【15:00】 午後の教室終了・会場の片付け
【15:30】 カンファレンス
スタッフで教室の進行や内容について、特に問題がなかったか、参加者の様子などを振り返ります。
複数回開催する教室であれば、次回の内容についても話し合ったりします。
【16:30】 帰庁
帰庁後は物品の片付けをします。丸1日外出していると、不在中にかかってきた電話や相談内容のメモが机の上に置かれていることが多いので、1つ1つ確認していきます。
【19:30】 日報のまとめ・翌日の準備
イベント等がある日は普段より帰りが遅くなります。
行政保健師はこんなこともします!
これまで行政保健師の仕事内容や1日のスケジュールを紹介してきましたが、時にはイレギュラーな対応も。
ここでは、普段なかなか経験できないような出来事を紹介していきます。
独居高齢者のゴミ屋敷掃除
家族とは疎遠の独居高齢者。
ある日、自宅で転倒し入院しましたが、幸い骨折はなくすぐに退院できることに。
しかし自宅はいわゆるゴミ屋敷で何年も床を見ていないそう。
このままではまた転倒してしまうリスクが高いため、家の掃除を提案しましたが業者を呼ぶお金はありません。
自宅の庭までゴミが溢れ出ており、周囲の住民からも問題視されていたため、今回は保健師や同じ部署の職員が片付けを行うことになりました。
ゴミ屋敷と聞くと単にゴミが積み上げられている様子を想像しますが、実際には冷蔵庫を開けた瞬間にドロドロの液体が流れ出てきたり、ネズミのミイラが家具の隙間から見つかったり…なんてことも。
身寄りがない方の遺品整理
稀に、全く身寄りがない中で亡くなる方もいます。
亡くなった後も、火葬や埋葬、自宅の片付け、水道や電気・ガスの解約手続きなどやることがたくさんあります。
本来であればそういった手続きは家族にお願いするのですが、身寄りがないケースでは行政職員や保健師が行うことも。
事前に本人から「荷物は全て好きにしていい」と了承を得ていたため、その方が亡くなった後に職員らで自宅の片付けを行いました。
ちなみに…家具などの処分にももちろんお金がかかり、それらは亡くなった本人が遺したお金から支払うことになります。
大きな家具は業者に引き取ってもわないと処分ができないのですが、なんと遺ったお金が数千円しかなく処分ができません!
苦肉の策で、まだ使える家電などをリサイクルショップに売りに行き、何とか処分費用をまかなうことができました。
時間外の電話対応
退勤後や休日の間も住民の生活は続いています。
「困り事がある」と時間外に電話がかかってくることはほぼ毎日。
認知症や精神疾患をもつ住民から夜中に電話がかかってきて、1時間近く話を聞くこともしばしば。
基本は電話で話を聞いて翌日訪問したりするのですが、独居の高齢者から「トイレが使えない」と電話が来た時には、備品のポータブルトイレ(置き型のトイレ)を担いで自宅まで走りました。
安否確認のため緊急訪問
「あの家、電気がつけっぱなしで郵便受けもいっぱい…」「あそこの奥さん、ここ1か月くらい姿を見ていない…」といった相談を近隣の住民から受けて急遽自宅を訪問することもあります。
大抵は別に暮らす家族のもとへ行っていたり、知らないうちに入院していた、などで終わるのですが、稀に動けなくなっていた、最悪の場合は亡くなっていた…なんてことも。
事前に家族に連絡して安否がわかればいいのですが、家族も状況がわからない時には、許可を取って窓を割り中に入ることもありました。
イベントの救護係
市区町村で開催されるスポーツ大会や、小学校のキャンプなどに救護係として派遣され、怪我や熱中症の応急処置を行います。
しかしここでできるのはあくまでも応急処置。
明らかに骨折していたり意識がない場合にはすぐに救急車を呼びます。
行政保健師は看護師のように怪我などの処置をすることは普段の業務でほとんどありません。
ひどいすり傷やねんざの応急処置、熱中症の対応などについては勉強しておくといいですね。
行政保健師になるにはこちらの記事で詳しくご紹介していますのでご覧ください。
行政保健師のメリットデメリットは
行政保健師として働く場合、どの様なメリットやデメリットがあるのでしょうか。
【メリット】
・地域の健康向上に貢献
行政保健師は住民が病気になる前に予防したり、病気をできるだけ早く発見・治療することを目的に仕事をしています。
結果的に地域全体の健康を守る事にもつながり、使命感ややりがいを感じます。
・サービスに詳しくなる
人々の生活を支えるためには、使えるサービスの種類や利用方法について詳しく知っておく必要があります。
世の中には困った時に使えるサービスが色々ありますが、それらを知る機会はなかなかありません。
日々の業務を通じて勉強ができるため、家族や友人などの相談にも乗りやすいですね。
【デメリット】
・サービス残業・休日出勤が多いが休みはなかなか取れない
イベントや緊急の対応で通常業務が遅れ、サービス残業や休日出勤をすることは多いです。
相談が殺到すると、朝から訪問に出ていてデスクに戻ってくるのは日が落ちてからということも。
住民から頼られる存在でもありますが、その分休みを取ると仕事が滞ってしまうため、なかなか有給休暇を消費できない現実があります。
行政保健師はきつい?
業務内容は幅広く、時間外や休日の対応も多い行政保健師。
正直に言うと、きついと感じる事も少なくないかもしれません。
どんな仕事でもそうだとは思いますが、体力や強い心が必要になってきます。
しかし、人はそれぞれ強みや弱みを持っています。
自分のメンタルが強くても、そうである事を相談者に押し付けてしまうことは望ましくありません。
逆に、自分の心の痛みに敏感であるからこそ相談者に寄り添った支援ができる場合もあります。
職場の環境にもよるとは思いますが、何をきついと感じるかは人それぞれなので、自分のペースに合った仕事ができるといいですね。
行政保健師を辞めたくなる理由とは
保健師の仕事には苦労も多く、辞めたいと思う人も少なくありません。
その理由は…
① 業務量・残業が多い
窓口での相談対応や電話での問い合わせ対応、訪問、記録の作成、会議、健診、健診結果の入力、教室など…
相談業務も、勤務先の市区町村の規模によっては、同時に数十人のケースを同時に受け持つなんてことも少なくありません。
また、保健師の仕事は相談業務だけでなく並行して事務仕事も行うため両立は大変です。
しかし勤務先によっては、「単なる事務仕事は残業として認められない」「予算の関係で残業代が支給できない」といった理由でサービス残業が多いのが実態です。
② 時間外の対応が大変
時間外は電話対応が主ですが、現場に行かなくてはならない緊急事態も。
関係機関もお休みだったりスタッフが少なかったりもするので、対応は大抵1人で行います。
自分で判断して対応を決めなければならないので、責任も重く大変でした。
③ クレームも多い
行政保健師は公務員であるため、周囲から「公務員」と一括りにされて、暴言を吐かれたり、怒鳴られたりすることも多いです。
行政保健師を辞めたくなった時の乗り越え方や対処法
ここまでは保健師の大変な業務や辞めたくなる理由について紹介してきましたが、もちろんやりがいも多い仕事です。
保健師に相談する人は、自分1人では解決できない問題を抱えている人がほとんど。
ほかの人には相談できない話を聞いてもらったり、問題が解決すると、「ありがとう」「あなたのおかげで助かった」とあたたかい言葉をかけてくれます。
つらい時にはあたたかい言葉を思い出して、住民の健康と笑顔を守るため、また仕事へ向かいます。
しかし、地域で暮らす人々を支えるためには、まず自分の心と身体の健康が一番大事です!
休日にはしっかりと休んで体力を回復させ、気分転換も忘れず行うようにしましょう。
行政保健師のリアルな口コミや評判とは
実際に行政保健師として働いてみて…
・思ったよりも業務が多い!残業が多くて大変
・一般の職員よりは住民との距離が近いと思う
・「ありがとう」「助かる」という言葉を直接聞けて、次も頑張ろうと思える
看護師から行政保健師に転職した人は
・夜勤がないのが嬉しい
・病気の人ばかりを見てきたから、予防に携われてやりがいを感じる
大変だけどやりがいも多い行政保健師の仕事
いかがでしたでしょうか?
今回は行政保健師の仕事内容や現場の声などを紹介してきました。
もしかしたら、今までイメージしていた行政保健師の仕事とはギャップがあるかもしれません。
私も実際に働いてみてそうでした。
でも、住民の方々から「ありがとう」と言われると、やっぱり嬉しくやりがいを感じます。
行政保健師の仕事は幅広く、地域の健康を守るために需要な仕事です。
この記事を読んでみて少しでも保健師に興味を持ってもらえれば嬉しいと思います。